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アメリカ合衆国 参戦

194411

 中央アメリカユカタン半島

主力戦車M4シャーマンの敗北はアメリカ軍に大きな衝撃を与えた。名実ともに世界の超大国となっていたアメリカにとって、主戦場ではないこんなところで人型重機を使うことは出来れば避けたいのが本音だった。例えそれが火星人との戦闘でのみ使用することを条件に供与されたものであっても、それがドイツと日本の共同開発で造られたものであればなおさらだ。(注1)大国としてのプライドがそれを許さない。しかし現実はより深刻な状況に陥っていた。昨日の報告によれば、シャーマン戦車1個中隊を撃破したのは明らかに人の姿をした巨大兵器だった。おそらくは人型重機と同系統の兵器と考えて間違いない。Ⅳ号人型重機のコピーすら造れないアメリカにとってそれは喉から手が出るほど欲しいサンプルだった。今払暁の奇襲では虎の子のT28重戦車まで投入したが、その重量ゆえ脆弱な地面を踏み抜いてこの地方特有の地下水脈(セノーテ)に落ちてしまっていた。アメリカはこの敗北をもってついに人型重機とそれを運用する特務部隊の戦線投入を決定した。

情報

 事の始まりは自由フランス軍からの情報だった。それはアラン・ポアン・アポアルージュと名乗る情報将校が自由フランス軍への兵器供与と引き替えにもたらしたものであり、元を辿ればヴィシー政権に潜入したスパイからの情報だった。やや眉唾なものではあったが、ツングースカ協定に参加していながら未だに火星の情報を手に入れられていなかったアメリカにとって、それはまたと無いチャンスでもあった。だが何よりも気がかりだったのはその「敵」が発見された場所にあった。と言うのもそこがアメリカの裏庭とも言えるメキシコ・ユカタン半島であったからだ。そこはマヤをはじめとする古代文明の遺跡が数多く点在する地域であり、予めもたらされた情報によれば「敵」はジャングルの奥深くにあるピラミッド群を拠点としているとのことだった。ツングースカ協定によって事前にもたらされた情報を繋ぎ合わせるに、そこで行われていることこそが今後の世界情勢を大きく左右するものであることは容易に想像出来た。事ここに至ってアメリカは、来るべき星間戦争に備えた準備行動を始める決心をしたのだ。

コウシロウ・クロバ

「端から任せておけば良いものを」

そう言いながら司令部を出てきたのは人型重機を運用する特務部隊の先任搭乗員デビット・モローだった。そして彼の後には事実上この部隊を率いる部隊長のコウシロウ・クロバが続いていた。彼らは司令部を後にするとシャーマン戦車が居並ぶ整備場へと差し掛かった。

「なんだ、わが軍の特務部隊の指揮官は移民の子か?まるで女みたいじゃないか」

彼らの姿を見た戦車兵がコウシロウを口汚く罵った。実際コウシロウは一見女性のような整った顔立ちをしていた。また東洋人特有の良く鍛えられた小柄な体と相まって、軍服を着ていなければ女性と間違われるような雰囲気も持ち合わせていた。だが当のコウシロウはそんな罵声など気にしていない。むしろ前を歩くデビッドの方がそれに反応した。

「なんだ、やるのかよ」

デビットに睨みつけられた戦車兵が悪態をつく。だが次の瞬間、デビッドの拳がその男の鼻をへし折ってしまった。

「てめえ!」

戦車兵の仲間二人がデビッドに襲いかかろうとしたところを、当のコウシロウが割って入った。

「多勢に無勢とは卑怯だな」

コウシロウがそう言い終わるか終わらないうちに、二人の男はコウシロウの繰り出した柔術で地面に組み伏せられてしまった。

「元気が余っているなら、俺の部下になれ」

コウシロウは倒れたまま動けないでいる三人に声を掛けた。

だが、それを聞いたデビッドが思わず顔をしかめた。

「またですか?隊長。それじゃ俺の時と全く同じじゃないですか。跳ねっ返りを部下にしたがるのは隊長の悪い癖ですよ」

「性分だ、あきらめろ。ついでにこいつらの面倒はお前が見ておけ」

こうして、ロバート、スティーブ、クリストムの三人が人型重機部隊に編入されることになった。

出撃

 その日の午後、出撃を命じられたコウシロウは空を見上げて少し考えた。

「もう少しだな‥。デビット、1時間後に出撃する。準備を怠るな」

コウシロウは理由も伝えずデビットに命じた。命令が簡潔過ぎて説明が無いのはいつものことだ。だがそれがいつも的を射ていると来ている。デビットはそのことが分かっていたので黙って指示に従った。

 待つこと1時間。

「いくぞ、野郎ども」

デビットの号令の下、パイロット達がドラゴンワゴンに積まれたⅣ号人型重機に乗り込んだ。パイロットによって「命」を吹き込まれた人型重機は整備兵によってワイヤーが取り外されると、広大なジャングルの中に消えて行った。

コウシロウの乗る機体には部隊マークの他に黒色で植物の葉が描かれていた。

「隊長、いつも思ってたんですがその葉っぱのマークは一体何です?」

コウシロウの重機に追いついたデビットが話しかけた。

「これか?これは家紋だ。日本の伝統でな、家族のシンボルマークだ」

それを聞いたデビッドは声を潜めてさらに言葉を続けた。先ほどの質問はコウシロウに話しかける口実だったのだ。

「隊長、俺はこの戦いが終わったら軍を退くつもりです」

「そうか、さては石切場の賢人(注2)に誘われたな」

コウシロウはにこりと笑ったがデビッドは驚いた顔をした。

「そんなに驚くことではあるまい。俺も誘われたからな。もっとも即座に断ったがな」

と言いつつコウシロウは少し考えた。

「今から部隊の指揮はお前が執れ、指揮官として少しでも経験を積んでおくことだ」

「本気ですか?俺が出来るのは隊長の真似をすることぐらいですよ」

コウシロウは鼻で笑った。

「だからだよ。先人の技術や戦法を学んで発展させる、それが進歩だ。俺は別にやることが出来た」

そう言うとコウシロウは無線機のチャンネルを切り替えた。

 少し行くと巨石で造られた1基のピラミッドが見えて来た。どうやらここが敵の根城らしい。

「マヤ文明のものだな。いや少し違うか?いずれにせよあんな入り口のあるピラミッドは初めて見た。戦時中でなければもっとじっくり調べられるものを。もっとも戦争のおかげでこいつを発見出来たのだから皮肉なものだ」

コウシロウは事の成り行きを呪いつつも、戦いを終えたらこの未知の遺跡を調査することに意識を向けた。しかし、そんな事に頭を使う時間は残されていなかった。

戦闘

 背後に巨大な殺意を感じてコウシロウは重機を翻した。その刹那、さっきまで自分のいた場所に光の矢が着弾した。その威力は凄まじく近くにあった木立を一瞬にして消し去ってしまった。

「シャーマン戦車の装甲を撃ち抜いたのはあの兵器か。手強い。だがもうすぐその威力も半減する。調子に乗っていられるのもせいぜいあと数分だ」

無線機からデビットの檄が飛ぶ。

「野郎ども、潰れたシャーマンを盾にして接近しろ。奴らの装甲は至近でなければ抜けない。88㎜砲は切り札に取っておけ。弾数が少ない上、速射が出来ない。撃つのはじっくり狙ってからだ」

的確な指示を出すデビットに頼もしさを覚えつつもコウシロウはピラミッドと周囲の地形に目を遣った。

「デビット、敵はピラミッドの正面。入り口付近から狙撃しようとしている。注意しろ」

「感謝します隊長。後はお任せを」

デビットは少し興奮していた。感情の起伏が激しいのが彼の欠点だ。それを知るコウシロウはデビットを制止した。

「少し待て。一度俺が囮に出る。だが出るタイミングは任せてもらうぞ」

それはデビットを抑えるための言葉だったが、指揮を執るデビットにとっても有り難い申し出だった。そしてコウシロウは待った。

 やがて時は来た。雨が降り出したのだ。それも激しく大地を打ち鳴らす程の大粒の雨が。その雨の中、コウシロウの人型重機がピラミッド正面に向かって走り出した。それに呼応して敵の光学兵器が放たれる。だがそれがコウシロウを捉えることは無かった。コウシロウの素早い動きに敵の照準が追いつかないのだ。しかし次はそうは行かない。今度は確実に直撃するはずだ。案の定コウシロウの機体に光の矢が突き刺さった。一瞬周囲に眩しい虹が舞う。しかし被害は無かった。激しい雨に阻まれて光学兵器の威力が減衰したのだ。

「予想通りだ。直撃を受けても被害はない。だが、さすがに熱いな。次をもらったら身体(からだ)の方が持たない」

そう考えたコウシロウは左足に装備された追加装甲(シュルツェン)を外して左腕に取り付けた。即席ではあったがこの盾でボディを守ろうと言うのだ。コウシロウはすぐさま37㎜砲を構え直すとピラミッドの入り口に一発撃ち込んだ。だが手応えは無かった。

「殺気を頼りに撃っても当たる筈は無いか。だがここで飛び込んだら敵の思うつぼだ。天候の利を生かすには奴らをピラミッドから炙り出すしかない。どうする?」

コウシロウは少し思案を巡らせると無線機で新たな指示を出した。

「例の奴を使う。俺は擱座したT28のところに向かう。デビットここの守備は任せたぞ」

そう言い残すとコウシロウはピラミッドの反対側、西側の広場に向かった。

コウシロウが移動する間、デビットは部下たちに攻撃の指示を出し続けた。ピラミッド側面を駆け抜けて行くコウシロウから敵の意識を逸らすためだ。デビットの檄により人型重機隊はピラミッドに向けてかつてない激しい砲撃を加え始めた。それを見たコウシロウは「少しは遺跡にも気を遣え」と言いかけたが、これからやろうとしていることを思って口に出すのを止めた。戦時であれば作戦の遂行や兵の安全が遺跡の文化的価値より優先されるのは仕方がない。それはとても残念なことだがやむを得ないことだった。

包囲

 入り口付近にいた敵が後退したことでデビット率いるⅣ号人型重機隊はピラミッドを包囲することに成功した。だがこれ以上は進めない。ピラミッドの構造が分からない以上、内部に突入したところでたちまち光学兵器の餌食になってしまう。デビット達は手詰まりの状態に陥った。

「何とかして奴らをピラミッドから炙り出さないと」

この雨の中なら敵の光学兵器も無力化できる。しかし、それが分かっているからこそ敵も簡単には出て来ない。デビットは焦った。この気まぐれなジャングルの天候がいつまた変わってしまうとも限らない。そうなれば残弾の少ない人型重機隊は格好の的にされてしまう。加えてこのⅣ号人型重機は作戦行動時間が60分に制限されている。それを超えて作戦を続けるのは体力の限界を越えて文字通り自殺行為となってしまう。デビットは無意識にコクピットの時計に目を遣った。

「あと45分…」

その時、突然目の前のピラミッドが小刻みに揺れ始めた。それは次第に大きくなり、ついには頂上の構造物が崩れ始めた。

「デビット副長、地震です」

パイロット達は皆パニックに陥っていた。無理もない。彼らは全員地震のない東部の出身だったからだ。デビットも相当驚いたが、以前コウシロウから地震の話を聞かされていたので辛うじて冷静さを保つことが出来ていた。

「みんな落ち着け、これは地震と言うものだ。放っておけばすくにおさまる」

『それにしてもこのタイミングで地震とは、俺達もまだ神に見放されていないようだ』

デビットは心の中でそうつぶやくと、ひときわ大声を張り上げて部下たちに命令を下した。

「敵が出て来るぞ。88㎜砲を持っている者はピラミッドの正面に狙いを定めろ。その他の者は俺に続け。南側の崖からピラミッドの天井を狙う。崩れる瞬間が勝負だ。敵が出て来るぞ。攻撃に注意しろ」

そう言うとデビットは2機の人型重機を引き連れて崖を登り始めた。その間にもピラミッドの揺れは激しさを増して行く。だが不思議なことにデビット達が登っている崖やピラミッドの周辺は全く揺れていなかった。デビットはピラミッドの向こう側に向かった隊長のことが心配になって来た。先程から無線で呼びかけているが、一向に返事が来ないのだ。

「隊長、応答してください。今どこですか?無事なら返事をして下さい、クロバ隊長」

「……」

デビットは努めて冷静に隊長を呼び続けた。しかしその心中は決して穏やかでなかった。

『今ここで隊長を失ったら、俺はこの先どうしたらいいんだ?石切り場の賢人に行くなんて言ってみたが、隊長と一緒じゃなきゃそれだって到底出来るとは思えない。ここでもしあの男を失うことになったら…』

それはちょっと恋愛にも似た感情だった。だがそのことに気付いたデビットは軽く頭を振ると両手で自分の顔を叩いた。

「オレは一体何を考えている、奴は男だぞ!」

だがその時だった、一瞬目を瞑った隙に例の巨人がピラミッドから飛び出して来たのだ。それは音速の速さでデビット達の方に向かって来る。両手を振り上げたその姿はまるで魂を刈り取る悪魔の姿にも見えていた。光学兵器による攻撃を諦めた敵が接近戦を仕掛けて来たのだ。その武器は両手に生えた鋭い爪だ。見るからに凶悪そうなそれは、しかしただ単に見た目がヤバいだけではなかった。それは人類がまだ知りえない、地球上のあらゆる物質よりも固い金属で作れれていた。もちろん人型重機の特殊装甲をもってしてもそれに対抗することは出来ない。唯一最近装備された脚部の追加装甲(シュルツェン)だけが辛うじてこれに対抗できると考えられた。間一髪、巨人の攻撃を躱したデビットはすぐ横で部下の重機が真っ二つに切り裂かれるのを目撃した。身も凍る光景とはこのことだ。巨人はそのずんぐりとした体型からは想像もつかない身のこなしで、今度はもう一機の人型重機に襲い掛かった。

「反撃しろ!」

だがデビットの叫びもむなしく、もう一機の重機もデビットの目の前で手足を残したままズタズタに切り裂かれてしまった。次は自分の番だ。デビットは重機の持つ37㎜砲を接近戦用の長刀に持ち替えると、コウシロウに教わった剣術の構えをしてみせた。その間にもピラミッドの崩落が進んでいく。見るとしびれを切らした別の巨人が入り口付近に現れた。そいつが外に出るや否や、待ち構えていた88㎜砲部隊が一斉砲火を浴びせかけた。体中を徹甲弾で撃ち抜かれた敵の巨人は敵ながら哀れに思えるほど悲惨な姿で最期を迎えることになった。

「残酷なのはお互いさまと言う訳か…」

デビットは思いのほか周りの状況が見えている自分に驚いた。以前なら部下をやられた怒りで目の前の敵しか見えなくなっていたはずだ。だが今では遠く離れたピラミッド周辺の状況まで正確に把握出来ている。それは隊長に指揮を任された責任感が自分を成長させた結果かもしれなかった。しかしそんな状態にも拘らず、当の隊長の行方は未だはっきりしていないのだ。

「本当にやられてしまったのか…」

だが感傷に浸っている暇はない。目の前の巨人が再び攻撃を仕掛けて来たのだ。激しく降る雨粒を切り裂いて特殊金属製の爪がデビットに迫る。だがそれはデビットの思惑通りでもあった。デビットは両手に構えた長刀を少しだけ右に傾けたていたのだ。そうすることで左側にわざと隙を作って巨人の攻撃を誘っていた。攻撃に転じる瞬間にこそ最大の隙が生まれる。それは巨人との戦いにおいても同じだった。デビットは音速で迫り来る爪を長刀で軽く払うとそのまま刃先を巨人の右肩に突き当てた。

「イヤー!!」

そう叫ぶとデビットはレバーを押し倒してフルパワーで長刀を振り下ろさせた。一刀両断。それは訓練でも出来たことが無いほど見事な一太刀だった。

「やりましたよ!隊長」

巨人を討ち取ったデビットは喜びのあまり、思わず答える筈のない隊長に報告を上げてしまった。

地下水脈(セノーテ)

 事前の情報では潜んでいる巨人の数は3体だとされていた。となれば残る巨人はあと1体。その刹那、大音響とともにピラミッド全体が崩落した。デビットは右半身を失ってもたれかかる巨人を振りほどくと、再びピラミッドに向けて重機を走らせた。ピラミッドの裏側の広場まで来たところで、デビットは一体の潰れた人型重機を発見した。左脚を吹き飛ばされ、うつ伏せに倒れ込んだその機体には黒い葉っぱのマークが描かれていた。

「まさか…」

そう思った次の瞬間、デビットの人型重機は激しい衝撃で擱座したT28のところまで吹っ飛ばされてしまった。朦朧とする意識の中、デビットは上から襲い掛かって来た巨人もろとも岩盤を踏み抜いてピラミッドの下に広がる地下水脈(セノーテ)に落ちてしまった。コクピットに侵入する水で意識を取り戻したデビットは水底に沈んで行くT28を目撃した。そのハッチからはコードのようなものが伸びている。潜水能力のないⅣ号人型重機も程なくT28と同じ運命を辿ってしまう。デビットはすぐさま脱出を試みた。だが水圧に押されてハッチが全く動かない。慌てるデビットをよそにコクピットの水位はどんどん上がっていった。

「もはやこれまでか…」

そう諦めかけたとき、デビットの乗るコクピットに聞きなれた怒鳴が響いた。

「もたもたするな。お前も男なら根性見せろ!」

それは間違いなく、コウシロウ隊長の声だった。

「……た、隊長!無事だったんですか」

喜ぶデビットを無視してコウシロウの指示が飛ぶ。

「巨人がそっちに向かったぞ。お前は死んでもいいからそのままそいつを羽交い絞めにしろ。あとはこっちで始末する」

「アイ・サー!」

『しかし相変わらず無茶言いやがる。いつも通り説明も無しか。しかも死んでもいいからって…え?え?』

考える間もなく最後の巨人がデビットに襲い掛かって来た。しかし自慢の鋭い爪も水の中では抵抗が大きくて思うように繰り出せない。とは言え浸水が続くデビットの方が条件は圧倒的に不利だ。このまま上手く巨人を抑え込んだとしてもおそらく溺死することは免れない。そもそも宇宙から来た(と思われる)こいつが俺と一緒に溺死するなんてとても思えない。

『俺は無駄死にか?』

しかし今は隊長の言葉を信じるしかない。これまでも何度も死線をくぐり抜けて来た隊長のことだ。今回も何か策があるに違いない。デビットはそう自分に言い聞かせると迫り来る巨人の猛攻に耐え続けた。そしてその時、何かが水底で爆発した。それは先程沈んでいったT28戦車だった。何者が仕掛けたダイナマイトが車内で爆発したのだ。水中を伝わって爆発の衝撃がデビットの重機と巨人を襲う。それはあっという間に2台を水面にまで押し上げた。

「デビット、そいつから離れろ!」

水面に浮きあがる直前、デビットは巨人を人型重機の上に押し上げた。その刹那、巨人は激しい衝撃を受けて痙攣するとそのまま動かなくなってしまった。水面に出たところを何者かに狙撃されたのだ。沈んで行く巨人を横目に見ながら重機を脱出したデビットは、地下水脈の岸に88㎜砲を構えるⅢ号人型重機と無線機を手にした隊長の姿を確認した。服が濡れているところを見るとおそらく隊長もこの地下水脈(セノーテ)に潜っていたのだろう。その足元にはT28を爆破したダイナマイトの起爆装置が転がっていた。

「無事だったのですね、隊長。潰れた重機を見た時は正直もうダメかと思いましたよ」

岸まで泳ぎ着いたデビットがコウシロウに声を掛けた。

「いろいろやることがあってな。あれのおかげでうまく行っただろ。感謝しろよ」

コウシロウはそう言うと地下水脈の天井に取り付けられた見慣れない装置を指さした。それは高さ5m以上あり、下の部分が地下水脈の水底に固定されていた。

「何なんですかあれは?」

「あれは、百目という組織(注3)が開発した共振発生装置だ。こいつで地下水脈の真上にあるピラミッドを崩壊させた。マヤのピラミッドは大抵地下水脈(セノーテ)の上に建ってると相場が決まっているからな。そいつを利用してこれを仕込んだんだ。遺跡マニアとしては少々忍びないやり方だったがな」

「そりゃ、一体どんな魔法なんですか?…いや、止めておきますよ。多分聞いても分からないだろうから。しかしそのためのⅢ号人型重機ですか。確かにⅢ号なら水中航行能力もあるしこの手に作業には打って付けだ。それにしても隊長も人が悪い。別動隊がいるのなら最初から言ってくれれば良かったものを」

「そんなのは今に始まったことじゃないだろう。今回もオレの目論見通り全部上手く行った。それで十分だ。他に何か聞きたいことはあるか?」

いつも通りのやり取りにデビットは少しほっこりした気分にさせられた。そこで前々から抱いていた疑問をコウシロウに聞いてみようと思った。

「隊長はみんなの言う通り実は女なんですよね?」

「なんだ、いきなり。しかし、なぜそう思う」

「いや、その濡れた服がですね、何と言うかその、体にフィットして胸の辺りが…」

指摘されたコウシロウはすぐさま下を向いて確認すると、慌てて胸を手で隠した。だが次の瞬間デビットはコウシロウが繰り出したハイキックで地面に打て倒されてしまった。

「そんなことはどうでも良い。すぐにここを離れるぞ。もうじきここも崩落する。急げ」

デビットは蹴られた頭を抱えながら

「アイ・アイ・サー」

と、ひときわ大きい声で返事をした。それを聞いたコウシロウは憮然とした表情のまま「ふん」とだけ応えた。だがその頬は少しだけ赤く染まって見えていた。

THE END

1

人型重機の製造は主にドイツで行われていたが、火星人との戦闘に際しては枢軸側、連合国側に関わらず協力してこれに当たることを定めたツングースカ協定(条約)により、少数ではあるが連合国側にも供与されていた。

2

古代より人類の歴史を特定の方向に導くべく暗躍して来た秘密結社。フリーメイソンと同じく、その源流はエジプトのピラミッド建造に携わった石工職人にあると言われているが、それよりも古くから存在していたとも言われている。

注3:

火星人の存在を知った日本人明石平八郎が造り上げた国際協力機関。火星勢力に対抗するため連合国と枢軸国の間にツングースカ協定を締結させた。共振発生措置は百目に協力していたニコラ・テスラの理論に基づいて造られていた。